「親の想いとモンスターズペアレンツ」

                              清水千弘

 教務主任になると,とかくいろいろな仕事に直面する。大学内では,学生の教育サービスに対応した様々な問題への対応,外交としては姉妹校をはじめとする大学に生徒を送ってくださる高校との関係強化,加えて広報戦略や将来構想の策定,最近においては認証評価への対応と,実に多種多様な仕事がある。
 しかし,それぞれの仕事に中には,それぞれの関係者の想いというものが見え隠れする。教育サービスにおいては,大学に子供たちを送ってくださっている親の想い,高校で学生を育ててくださった高校の先生方の想いである。その想いが強くなり,受け取る側の想いとの間にギャップが存在するときに,ちょっとした歪みが発生する。それを,最近では,「モンスターズペアレンツ」と呼ぶことがある。果たしてもこのような呼び方は適切なのであろうか。
 先々週のことである。ある学生が履修登録に失敗してしまったことで,かなりの数の科目を受講できなくなってしまった。そのようなことが起こる中で,再三にお父様から要望書が教務課に届く。本学の規則では,登録期間が終了した後には,履修登録をすることができない。それは,個別対応したときに他の学生との間で公平性を欠いたり,このような事務手続きを適切に実行していくことが将来の社会人力において重要であることを教育する一つの機会としてとらえていたりするためである。
 対応を検討する中で,「モンスターズペアレント」ではないかという言葉が出てくる。しかし,実際にそのお父様とお話をしてみると,その背後には様々な個別の問題があり,その行動を裏付ける親の想いがわかる。そのことは,けして「モンスターズペアレンツ」と呼ぶべきものから遠いものであり,我々の想いと配慮が足りなかっただけであることがわかる。
 高校の先生との間で起こった問題も同じであった。ある大学の教員の心ない一言で,オープンキャンパスに来てくれた高校生の気持ちを傷つけてしまった。もちろんその高校の先生からは大学にクレームが入ったわけだが,大学としてその発言を裏付けるような証拠を出して説明をするという対応をした。そこには,自分が大切に育てている生徒に対する親(教員)の想いと大学側の想いにギャップが存在していた。このようなトラブルがあると,大学側では,その高校はお客様としては不適切であり,来てもらう必要がないという話になってしまっていた。しかし,その高校に訪問して話を聞いてみると,その生徒を育ててきた教員の生徒に対する想いは,教員として当たり前のことであり,大学の対応がきわめて不適切であったことがわかる。これもまた,「モンスターズペアレンツ」と呼ぶような問題ではない。
 私たちは,親として子供に対する想いをどのように表現したらいいのかがわからなくなるときもある。時として,その想いが強くなりすぎることがあることも確かであろう。しかし,私たち教育者は,その想いとどのように向き合っていくのかと言うことは,きわめて大切な課題である。その想いと真剣に向き合う必要がある。要望を強く出してくる親を「モンスターズペアレンツ」と呼ぶ教員たちは,その教員自身の想いが欠如していることの方が多いのではないか。
 今年もまた,九州の教え子のご家族から「筍」をはじめとして季節のもの,焼酎などが自宅に届く。彼が逝って3年が過ぎようとしているが,親の想いというのは,何があっても消えることはないのである。

2013.5.21 麗澤大学にて