三匹の子豚のおうち-人口減少時代の住宅政策-

清水千弘(日本大学スポーツ科学部教授)

子供のころに,「三匹の子豚(さんびきのこぶた)」の物語を読まれた方も多いのではないか。
母さん豚は,子供たちを自立させるために,家を出すこととした。その3匹の子豚の兄弟は,それぞれの家を建てることとなる。一匹目の子豚は,藁(わら)で家を建て,二匹目の子豚は木で家を建てた。そして,三匹目の子豚は煉瓦(レンガ)で家を建てる。

そこに,オオカミが現れ,藁と木で建てた家は吹き飛ばされてしまい,子豚たちは家を失うばかりか,オオカミに食べられてしまう。しかし,レンガで建てた家は,オオカミに吹き飛ばされることもなく,その子ブタは自分の身を守ることが出来たのである。この物語を読んだときに,頑丈で立派な家を建てることが大切であると思った方も多いのではないか。

しかし,現代社会におけるオオカミとは何であろうか。地震(耐震性),台風などによる自然災害や犯罪から身を守るという面はある。そのような災害や犯罪から身を守ることは必要であるが,必要以上に立派な家を建てる必要は,現代社会では少ないのではないか。

人口減少時代に入り,地方都市を中心として多くの都市で空き家問題に頭を悩ませている。空き家とは,住宅ストックと住宅需要とのギャップ,つまり過大のストックか,過少の需要,またはその両方によって出現する。人口減少と人口構成の高齢化が進む中では,住宅需要は低下していく。しかし,このような住宅需要の低下に応じて,住宅ストックが調整することが出来れば,つまり滅失させることが出来れば,空き家が増加することはない。

わが国の空き家が増加を食い止めるためには,住宅供給を制限すべきだという主張をされる専門家もいるが,ストックの新陳代謝を進める上では,一定の供給も必要である。私見としては,空き家問題が顕在化してきた背景には,不必要となった住宅を滅失させることが出来ないというストック調整機能が作用していないという問題があると考える。

藁の家や木の家は,ある意味低コストで簡単に滅失させることはできる。高い労力(費用)をかけていないのであるから,それを取り壊すことの抵抗は小さいであろう。しかし,レンガの家は,取り壊しをするのに大きなコストがかかるし,多くの労力(高い費用)をかけて建てているので,取り壊すことに対する抵抗も強い。都市の中に固定化されてしまうのである。

3Dプリンター技術の発達により,自動車の多くの部品が低コストで製造することが出来るようになってきている。住宅についても,多くの部材が3Dプリンターによって製造できるようになる時代がすぐそこまで来ている。一定の自然災害に堪えることが出来る藁や家,木の家が建設できる時代になるのである。

人口減少が進む社会においては,レンガの家ばかりでなく,滅失させやすい藁や木の家をバランスよく供給し,ストック調整を図っていくことが必要であると考える。