何を破壊(Hakai)しなければならないのか?
(Hakai報告書に寄せて)
 清水千弘

Hakai,何をいったい破壊しないといけないのであろうか。
破壊した後に何が生まれてくるのであろうか。Hakaiは,新しい社会を創造するために,必要なものであろうか。
今,破壊しないといけないのは,我々の常識と既成の概念である。日本は,戦後,飛躍的な経済成長を成し遂げた。人口も大きく伸び,どの国も経験したことがない経済成長を実現し,世界の経済大国の仲間入りをして,ここ数十年君臨してきた。そのような中で,我々は豊かさを享受し,一見,幸せの生活を送ることができてきたかもしれない。
しかし,そのような経済的な豊かさの源は,すでに崩壊し始めている。いや,もともとが幻想だったのかもしれない。一気に成長した国は,崩壊する速度も速いかもしれない。そのような中では,価値観を一気に変化させて,新しい豊かさを追い求めていくことが重要かもしれない。

人口減少・高齢化,経済成長率の低下といった,戦後,日本が追い求めてきたものと逆のベクトルが働くことに対して,多くの人が不安を覚える。しかし,これをきっかけとして,今まで,人口増・経済の高度成長によって諦めてきた多くのことを取り戻すことができるかもしれない。

戦後の都市計画を描いたときは,グリーンベルトを創造し,人が住まうところと保全すべきところを明確に分離しようとした。しかし,そのような理想は,人口増と急速な都市化の進展によって,スプロール化の進展といった形で,無秩序な都市形成を許してしまった。高度経済成長に伴う土地価格の急騰は,貧相な建物を大量に生産させることとなり,それでも十分な住宅を国民に対して提供することができなかった。

しかし,新しい局面を迎えて,我々は本来の理想とする住空間を取り戻すことができる可能性が見えてきた。土地が余る中で,その土地を空間として再生させることもできる。土地価格が平準化することで,建物に投資をすることができる。われわれは,住宅を資産としてではなく,幸せをもたらしてくれる,経済学の言葉で言うと効用をもたらしてくれる財として,改めて定義しなおさないといけないかもしれない。このような再生には,劣悪な形で創造した都市空間と建造物の除却を円滑に進めながらやらなければならないという課題も突きつけられている。

Hakaiの向こう側に,新しい世界が広がっていると信じたい。

麗澤大学経済学部 教授 清水千弘