あなたは,一体何に対して投資をしたのですか?
(ファンドレビュー2009.10.5,No.162)

麗澤大学経済学部准教授 清水千弘

最近において,やはり不動産投資のリスクは高いのではないかという声を聞く機会が多くなった。不動産投資は,他の金融資産と比較して本当にリスクが高いのであろうか。

ある会議のパネルディスカッションで,年金投資家の方が,「不動産に投資をしたが,CMBSの償還問題が発生する中で,多額の損失を出すこととなった。なぜ不動産に投資をしなければならないのか」といった質問をされた。そのような質問に対して,われわれが明確な回答ができなかったことは残念でならなかった。最近において,不動産投資を積極化させた年金投資家が,今後,不動産投資市場に当面戻ってこない理由は損失を出したからではなく,こんな些細なやり取りができないわれわれ専門家にも問題があるのかもしれない。

ここで,我々が考えなければならないのは,この投資家がどのリスクを取ったのかということである。不動産のリスクを取ったのか,それとも金融のリスクをとったのか,といったことが認識できていなかったのではないか。確かに,不動産市場と金融市場の融合が進む中で不動産金融市場が成長し,リスク特性を切り分けることで,そのリスクに応じた資金が市場に流入し,市場が拡大していくことが期待された。しかし,前述の質問に代表されるように,自分が何に対して投資をしたのかもわからない投資家が多く存在するのである。「CMBSの償還問題が発生する中で,多額の損失を出すこととなった」という質問からもわかるように,投資とはリスクを保有することであるという定義に基づけば,この年金投資家は金融のリスクをあわせて保有したのであり,不動産リスクだけを保有したわけではないのである。
もし,仮に長期的な視野のもとでのフルエクイティ投資であれば,このような金融のリスクを保有することはなかったのである。年金が不動産に投資をする理由は,不動産の持つ特性を理解したうえで,不動産固有のリスクを保有することなのではないか。

短期的な資金に裏付けられたレバレッジド・エクイティタイプの不動産投資は,たまたまキャッシュフローが生み出す源泉が不動産であったというだけであり,その源泉は何でもよいのである。ハイレバになればなるほど,キャッシュフローを生み出す源泉が不動産である必要はなく,また,そのような商品への投資は,純粋な不動産投資とは言えなくなる。
 実際に,不動産投資は,様々なリスクを保有することとなる。そして,そのリスクの発生プロセスやそれが出現するタイミングは様々である。不動産投資は,ミドルリスク・ミドルリターンなどと言われるが,株や債券と比較してリスクが高いかどうかといった単純な比較はできないのである。リスクの性質そのものが異なるためである。
 そして,そのリスク構造は時間の経過とともに変化していくことを認識しておかなければならない。今までリスクと思っていたものが解消されたり,新しいリスクが出現したりすることもある。例えば,環境リスクは,今後,最も注意深く管理すべきリスクかもしれない。

今回,不動産投資で損失を出した方に今一度問いたい。「あなたは一体何に投資をしたのですか」。


(2009年9月27日)