不動産投資インデックス整備の重要性
(不動産鑑定:住宅新報社所収)
 清水千弘

小野・清水の1997年論文に先立ち,1996年にある研究会で市場情報からヒストリカルボラティリティを求めて,収益還元法における利回りに反映させるモデルを紹介した。 不動産鑑定士の専門家が集まる会議であったが,ほとんど理解を得られることなく,不動産市場のリスクを取り違えているとお叱りを頂戴した記憶が鮮明に残っている。
その理由は,不動産市場のリスクとは,地震リスクや欠陥住宅に代表される建物等に帰属するリスクがほとんどであり,土地神話に支えられてきたわが国において,市場リスクを理解させることはきわめて難しいものであったといえよう。その後,不動産金融商品の開発がはじまり,不動産市場と金融市場が本格的に融合していくなかでは,ようやく不動産市場のリスクを市場変動リスク・流動性リスクとして定量的に把握しようとする試みがなされてきた。
このように市場構造は外から変化してくることが多い。その変化を如何に敏感に感じていくことができるかが重要となろう。
インデックスについても同様である。EU諸国や南アフリカで成功を収め,今後,カナダやオーストラレア・ニュージーランドなどでインデックスを提供しているロンドンに本社を置くIPD(Investment Property Databank)社の代表と話す機会を得た。不動産金融という市場が成熟していくなかでは,投資資金は国際的な枠組みの中で決定されるようになり,パフォーマンスを測定できない地域には投資資金を呼び込むことが困難となる。
このままでは,日本は不動産インデックスを持たない唯一の国になってしまう。そのなかで,世界的な市場から見放されていくことが最悪のシナリオである。インデックスの開発が他のアジア地域で先に行われた場合,投資資金が日本から離れていくことが将来的には起こらないともいえないであろう。
それでは,なぜ日本でできないのであろうか。同氏いわく,その最も大きな理由の一つが,情報開示が進められていないわが国においては,情報収集コストが相対的に高く,それがハードルを高めているという。国際的な比較のなかで相対的にインデックスを作成していく上でのコストを高めている要因を,公的部門の責任のなかで除去していくことが重要なのではないか。
米国マサチューセッツ工科大学大学院の不動産経済学を担当するWilliam C.Wheatonのテキストの日本語版に寄せた序文に次のようなくだりがある。「日本は国土庁という,土地や不動産を評価する省庁のある唯一の国である」と。日本の不動産市場をグローバルスタンダードな市場へと進化させていくためにすべきことは何か。官民を挙げて,真剣に議論をしていくことが重要である。