不動産鑑定士の転職
(不動産鑑定:住宅新報社所収)
 清水千弘

最近,不動産鑑定士の転職がまた活発化してきていると聞く。リクルートのヘッドハンティングから通常の転職支援までを含めた人材系の仕事をしている担当課長から相談があった。現在,建設・不動産の分野と金融の分野は別々のグループでやっているのだが,同じグループにしたらどうかというのである。まだまだ不動産金融という分野の成長性は高く,人材も動くという見込みを持っているのである。
 それでは,現在の人材市場は,どのようになっているのであろうか。求められる人材像とは,不動産金融市場の成熟度,または個別の企業の戦略と成長ステージに応じて変化してくる。
人を求めている業態は,様々であり,多くの業態の企業からの引き合いが強い。投資銀行だけでなく,大手流通会社なども含めて,求めている。しかし,この市場ではじめに人の動きが大きかったのは,2~3年前である。当時は,立ち上げ期ということもあり,各企業で中心になるような人材が高額な報酬額で動いた。また,求められる能力としては,プロジェクトを推進できる企画力とコーディネイト能力,海外での実務経験が求められた。そして,現在では,裾野が広がることで,いわゆるフィールドプレイヤーが求められている。
 当然,リスクも小さくなっているので,必ずしも高い報酬をベースに動いているわけではない。
 それでは,不動産鑑定士はどうか。不動産金融ビジネスといっても様々な仕事をすることとなるが,そのなかでもacquisitionといわれる物件の買い付け部隊として採用される場合が多い。アセットマネジャー,ポートフォリオマネジャーなどは,ファイナンスの知識が必要となったり,その分野での実務経験が必要となったりするため,その業務にはつくことはまずありえない。さらには,リスクマネイジメントをするような金融工学的なスキルを求められるものや,高度なスキルが求められるアドバイザリー業務につくこともほとんどない。当該分野に限定して言えば,現行の試験制度・研修制度などを通じて得られる能力に対する市場の評価は必ずしも高くないのである。一部に,転職を通じて成功した方もいるが,それは留学等を通じて,まったく別のスキルなどを身につけたためであり,既存の日本の教育体系で育った方の成功事例は少ない。
 日本の雇用制度は大きな転換期にあるが,個人単位で自分自身の市場価値をどのように高めていくのか。当該分野で不動産鑑定士の社会的な地位をどのように確立していくのか。復権していくのか。
 ある外資の大手会計事務所の人が言った。「いい鑑定士とは,高い価格をつけてくれる鑑定士である。言いなりになってくれる鑑定士である」と。また,多くの鑑定士が仕事をもらうためにそのような行動をしていると。では「将来に問題になったらどうするのか?」と聞いたところ,「損害賠償請求を出せば言い。鑑定士は,毎年,大量供給されてくるのだから,年間,数十の単位であれば潰れていってもいい」と。また,特定の業務では損害賠償に耐えうる数社にしか出さないと。
 真に危機感をもって,鑑定業界の構造改革をすすめることが必要な時期かもしれない。
 くどいようであるが,上記のような問題を回避するためには,統計教育は必要である。また,鑑定士としての市場価値を高めていくためには,どのような再教育が必要となるのか。自分自身を見つめて,または市場の動きを見つめて,計画的に自己改革していくことが必要であろう。