時系列分析の可能性
(不動産鑑定:住宅新報社所収)
 清水千弘

不動産市場分析への時系列モデルの適用は,価格指数の発展とともに増加してくるであろう。近年,ようやく時系列分析に耐えうる不動産価格指数が登場し,さらに不動産市場と金融市場との融合が始まるなかで,本格的な時系列分析の適用が始まる予兆がある。
 ここで,実務で時系列分析を利用する場合には,不動産市場の特性を十分に吟味しておくことが重要である。もっとも大きな特性が,空間概念の導入であろう。安藤ら(1992),肥田野ら(1994)ですでに研究がはじめられているように,時間的な変動,または経済変数等との因果性を含めた分析だけでなく,空間的な波及構造を認識していくことが必要である。
 しかし,不動産投資実務で適用可能とするためには,どのような空間単位で分析を行うのかといった市場分割の問題を解決しなければならせない。例えば,データの取りやすさといった意味で,行政市区別の情報を利用したとしても,投資環境として同一行政市区内でも,異なる変動をしている場合には,その分析には意味を持たない。実務家として,またはプロとして,どのようにサブマーケットを設定し,分析をしていったらいいのか。国際経済データなどを用いた分析では,国という単位は,基本的には普遍的なものとして扱うことができる。しかし,不動産投資市場は,常に変化していく。追時的に変化していく市場をどのように捉えることができるのか,計量経済学的には構造変化への対応が求められるが,それに対応していくためにはどうしたらいいのか。
 研究面で開発された高度な手法を実用的なレベルに落としていくためには,より一層深い研究が必要である。