証券化不動産の鑑定評価における継続評価問題
(不動産鑑定:住宅新報社所収)
 清水千弘

不動産市場分析における統計学を講義をさせていただく機会を得た。私が考えている内容が,いかに実務者から距離があることに気がつくともに,大きな刺激となった。その一方で,現在の鑑定実務で起こっている問題を再認識させられた。
 さて,ある大手のファンド関係者から,複数の物件評価におけるキャップレートを含む鑑定評価書で整合性がとれていないことに関する相談を受けた。よく鑑定評価書を読みこんでみると,確かに一件ごとにおける評価は問題はないように見える。しかし,横断面的に比較すると,明らかにおかしいことに気付く。従来の鑑定評価は,時空間的な整合性をとる必要はなく,単時点の単一物件での最適解を求めることが求められてきた。しかし,ファンドの評価は違う。横断面的な整合性が求められる。
 さらに大きな問題として,年に最低1回は見直しが行われることにより,時間的な整合性をとることも求められる。
 すでに上場しているものでは,もうすぐ,その時を迎える。今年は切り抜けることができても来年,再来年はどうか。どこかで整合性がとれなくなることはないか。
 時空間的な整合性を取れなくなった地点を,評価替えにより対応してきた公示地価とは異なり,逃げることができない。
 5年前に,統計モデルにより,時空間的な整合性をとる方法を提案したことがあったが,大きな批判を受けた苦い記憶がよみがえる(ある機関投資家では採用されたが)。
 これから両者に対して,市場の採点が始まる。