統計分析との付き合い方
(不動産鑑定:住宅新報社所収)
 清水千弘

不動産市場を対象とした分析だけでなく,様々な因果性を探る方法としての統計分析は極めて重要な分析である。しかし,このような因果性は,一般的な傾向であり,それがすべてではないことはいうまでもない。最近において,多くの市場関係者が,統計分析に対して過度な期待をもたれている方が多いことがわかった。統計分析は,総じて,そのような現象が起こる確率が高いというだけである。
 例えば,近年,DDCF法が注目されている。ここでは,不確実な要素を数学的な世界に持ち込んで,起こりうる可能性をできる限り再現した上で,価格を確率分布として導出するものである。この手法は極めて有用性は高いものと考えるが,最終的な価格決定は,専門家としての強い意志と信念のもとで判断することが必要である。不動産市場分析を科学的な分析へと進化させようという初期の志とは相反することをいっているが,統計分析や各種実験が万能ではないことを注意しておきたい。
 しばしば,統計の例示としてスポーツを挙げる場合が多い。例えば,「脚力」の強さが「100mの記録」,「走り幅跳びの記録」に強い因果関係があるというものなどが代表的である。確かに,そのような確率が極めて高い。しかし,空手を例に挙げてみよう。攻撃力を規定するのは,「蹴りの強さ・速さ」+「突きの強さ・速さ」である。そうすると,「蹴りの強さ・速さ」は脚力に,「突きの強さ・速さ」は腕力に規定されると考えた場合,「脚力」「腕力」が強い人が「空手が強い」ということになる。
 しかし,実際は,まったく違う。そこには科学的には計測できない「気」の強さ,「胆力」が重要な要素として入ってくる。
 不動産市場も例外ではなく,科学的には分析できない「誤差」またはそれとは違う特殊な要因を専門家として読み解く必要がある。この一連の講座を通じて,統計分析とうまく付き合う方法を学習していただきたい。